第10回 猪木正道研究会の報告

投稿日時: 2021/05/03 editor5

10 回 猪木正道研究会の報告

 

10 回猪木正道研究会は、平成 31 年( 2019 年) 3 9 日(土) 16 00 から 18 20 の間、 猪木正道先生のご長男猪木武徳大阪大学名誉教授(前青山学院大学特任教授)並びに日本の経済学の大御所である市村真 京都大学名誉教授をお迎えして、青山学院大学・総合研究所ビル 5 階「14509」番教室において実施しました。

プログラム

・挨 拶      NPO 法人猪木正道賞基金理事長・兵庫県立大学理事長   五百旗頭 眞

 

・報告 1  父の思い出

大阪大学名誉教授・国際日本文化研究センター名誉教授   猪木 武徳

 

・報告 2  「猪木正道先生に学ぶ」

                京都大学名誉教授・国際東アジア研究センター名誉顧問  市村 真一

 

ご案内の通り、青山学院大学は、 1982 年に国際政経学部が創設されるのと同時に猪木正道先生が当時の大木金次郎院長・理事長からのたっての要請により同学部教授として 1990 年まで 8 年間教鞭をとられており、また、猪木武徳先生も同学部特任教授として 2012 年から 2016 年まで努められた両先生にとってゆかりのある大学です。

 

 

 第 10 回研究会では、五百旗頭眞猪木正道賞基金理事長の挨拶のあと、最初に猪木正道先生のご子息である経済学博士の猪木武徳先生が、「父の思い出」と題して報告を行いました。

父とは専門分野が異なるため、政治学者あるいは防衛・安全保障学の専門家としての学問上の業績について語ることはできないとのことから、家族から見た私的な「父の思い出」について話されました。

1_ 家庭では、自由を尊重し、子供に勉強を強制したり、進路の決定に介入しなかったこと。 2_ 短気であった父の性格を母である倉子夫人が補っていたと。そして、家族との団欒を楽しんでいたこと。 3_ ドイツ語が堪能である父は、ドイツ文学をたしなみ、ドイツの作曲家ワーグナーの音楽が大好きだったこと。 4_ 東大学生時代の恩師河合栄治郎教授を尊敬し、終生大きな影響を受けていたこと。 5_ 人的交流に関しては、奇人変人といわれる人や、芸術家、経済人との交流を楽しみ、政治家との交流は特になかったこと。そして、 6_ 大学紛争が激しかった京都大学教授時代の父は、過激派学生から授業を妨害されたこともあって苦労があった様子だったが、防衛大学校長時代の父は生き生きとしたことなど―、印象深く人間味溢れる興味ある話をされました。

 

次に、今回のメインスピーカーで ある市村真一京都大学名誉教授が「猪木正道先生に学ぶ」と題して報告を行いました。

1)まず、昭和初期の猪木正道先生が東大学生ころは、恩師の河合栄治朗郎教授の「学生叢書」が学生に大きな影響を与えており、猪木先生も河合教授から、カント哲学、民主社会主義、反共産主義・王政支持の思想を強く受けたこと。

2)次に、戦後になり、猪木先生が著した政治学の書としての、共産党史(独・ソ連)、「独裁」の研究の二分野の研究は、内外において周知のものとなった。私も京都大学移籍の直後 1967 年から 70 頃、数ヵ年間勝田吉太郎(京大教授)・猪木・市村の三人で「独裁下の政経」をテーマに討論、他の研究者も招いて討議し、猪木・市村共編『共産圏諸国の政治経済の動向』創文社を 1974 年に出版したこと、など。

3)自衛権について、防衛大学校に着任直後、防大で憲法と防衛をテーマに佐々木惣一(京大)教授の学説を解説し、自衛権の当然を論じ、宮澤俊義(東大)教授を批判したこと。

4)日本の君主制の支持について、猪木正道先生には『天皇陛下』なる書があり、わが国の君主制支持は明白であり、先生の日本国家の歴史的伝統の尊敬に心から敬意を表する。

5)最後に、大学紛争時の京都大学大キャンパス内には、「猪木、高坂、市村の三悪人」などと書いた左派学生運動家による立て看板が立ち、彼らからの攻撃もあったが、猪木正道先生による奥田東(京大総長)、岡本道雄(京大総長)へのご紹介により、京都大学東南アジア研究センター所長としての職責を十分に果たし得たこと―、などを述懐されました。 

市村真一先生は、御年 93 歳という高齢にも拘わらす、矍鑠(かくしゃく)とした姿で、丁寧なレジュメを用意され、力強い口調で話されました。

 

  今回の研究会は、天候にもめぐまれ、青山学院大学校友を含む一般参加者も多数参加して質疑応答も行われ、盛会な研究会になりました。


 

研究会終了後、場所を青山・アイビーホール 3 階の「オオゾラ」に移し、報告者を囲んで楽しい懇親会が行なわれました。

 

 〔※なお、第 10 回猪木正道研究会の詳細な記録は、本年 11 月に刊行します年報『平和と防衛』第 6 号に掲載します。ご期待下さい。〕