第1回 猪木正道賞発表・授賞式について更新しました

投稿日時: 2021/04/30 Kanri

第1回日本防衛学会猪木正道賞 発表・授賞式

1 全 般

 第1回日本防衛学会猪木正道賞発表・授与式が、平成 27 年度日本防衛学会(秋季)研究大会一日目( 11 27 日)の午後に防衛大学校・社会科学館大教場において挙行されました。
 五百旗頭眞理事長の挨拶のあと、田所昌幸選考委員長から猪木正道賞の発表と選考評が行われました。
 平成 26 7 1 日から「公募」を開始し、第1回猪木正道賞(学会賞)の応募件数は5件でした。
 今年度は、「猪木正道正賞」はなく、次の2つの著作に「猪木正道奨励賞」が授与されました。

 ・平野 龍二 会員
  『日清・日露戦争における政策と戦略 「海洋限定戦争」と陸海軍の協同』
   (千倉書房、 2015 2 月刊行)
 ・佐野 秀太郎 会員
  『民間軍事警備会社の戦略的意義 米軍が追求する21世紀型軍隊』
   (芙蓉書房出版、 2015 5 月刊行)

 

 猪木正道奨励賞が授与され後、受賞者からそれぞれ受賞の挨拶が行われました。

 

2 選考委員会 選考評

 選考委員会(委員長) 田所昌幸
 平野 龍二『日清・日露戦争における政策と戦略 「海洋限定戦略」と陸海軍の共同』(千倉書房、2015年)は、日露戦争に関して「海洋限定戦略」の実行例と評したジュリアン・コルベットの所説を踏まえ、日清・日露戦争における日本側の政戦略を実証的に分析した作品である。日清戦争に関して 3 つの転機を指摘し、また、日露戦争に関してもコルベットと類似した戦略思想を持つと筆者が評価する秋山真之と、山本権兵衛・佐藤鉄太郎の「島帝国」論を対比させた点に、オリジナリティを認めることができる。日露戦争について今日一般に広く知られていることは、おそらく司馬遼太郎による「坂の上の雲」による部分が大きいかもしれないが、いかに資料を綿密に調べたすぐれた著作ではあっても、これは歴史小説であり学術的な分析ではない。他方ですでに膨大な量存在する戦史研究は、厳密ではあってもやや局所的で大局的な戦略論的分析は意外にも不足している。それに対して本書は、包括的かつ学問的に日清日露の両戦争を分析した業績でありながら、すぐれた筆致で読者を引きつけ、著者の誠実な研究態度とともに、ストーリーテラーとしてのすぐれた資質を窺わせる。
 ただし、「政策と戦略」と銘うっているが、日本にとって朝鮮半島の独立がなぜ重要であったかという基本的な戦略判断についてはほとんど検討されておらず、「絶対戦争」、「島帝国」概念と「海洋限定戦略」概念それぞれの戦略構想の対比も、十分に展開されていないことに物足りない点があり、正賞には今一歩及ばないのは惜しまれる。
 にもかかわらず、この重要なテーマについて、専門家のみならず広く読まれるべき著作の登場を心から慶びたい。

 

 佐野秀太郎『民間軍事警備会社の戦略的意義ー米軍が追求する 21 世紀型軍隊』芙蓉書房出版は、民間軍事警備会社(PMSC)に焦点をあて、アメリカでの理論的分析を紹介し、イラクおよびアフガニスタンでの作戦実態に触れた研究である。このテーマに関する日本人研究者による研究は数少なく、今後日本語の文献として確実に参照される、パイオニア的な業績である。その手法は丹念に膨大な分析を渉猟して丹念に分析するというオーソドックスなものであり、愚直と言えるほど真摯な研究態度である。
 しかし主張の中核である、 PMSC が付加的なフォース・マルチプライアーから、米軍にとってより基幹的なフォース・インテグレーターへと変化したという基本主張については、論証が十分に説得的に展開されていると言いがたい。また今後、安定化作戦が米軍にとって重要性を維持し続けるかの見通しについても分析を欠いており、残念ながら正賞とするまでの完成度には及んでいないと選考委員会は判断した。
 しかし未開拓の領域に果敢に取り組んだ労作であることについては疑問の余地はなく、この分野で後に続く研究者の道しるべとなる業績であることを、高く評価したい。

 

3 受賞の言葉

 第1回猪木正道奨励賞受賞者 平野 龍二
 このたびは、昨年2月に上梓しました拙著『日清・日露戦争における政策と戦略』が、日本防衛学会の猪木正道奨励賞を受賞することができ、誠にありがとうございました。特に今回は第1回ということであり、感激もひとしおであります。
 受賞した拙著は、慶應義塾大学大学院法学研究科に提出した博士論文に加筆修正を加えて上梓したものであります。まずは、この紙面を借りまして、大学院時代の指導教授のおりより一貫してご指導をいただいております赤木完爾先生に感謝申し上げます。また、博士論文の副査を担当していただいた横手慎二先生、戸部良一先生、そして私が大学院時代に在籍していた当時の法学研究科委員長であった国分良成先生をはじめ、ご指導を賜った多くの先生方に感謝申し上げたいと思います。
 今回の選考にあたっては、私の拙い研究成果を、このように高く評価していただき、選考委員長の田所昌幸先生をはじめ、選考委員の先生方に感謝申し上げます。この研究は、長期にわたり海上自衛隊幹部学校に勤務しながら、同時に大学院に通い進めていきました。大学院通学をはじめ、私の研究に様々なご配慮をいただいた歴代学校長をはじめ、上司、同僚の皆様に感謝申し上げます。また、拙著公刊にあたっては、慶應法学会から助成をいただくと共に、出版事情の厳しいおりに刊行していただいた出版社の皆様、その他の関係者の皆様に厚く御礼申し上げます。本当に多くの皆様方のおかげで、この賞を受賞することができました。
 私は現在、防衛研究所に勤務して研究を進めております。今までは、日清戦争史、日露戦争史、そしてジュリアン ? コルベットをはじめとする海洋戦略論について、主に研究してきました。今後は、これらの研究をさらに深めていくと共に、また他の時代の戦争研究にも取り組んでいきたいと考えております。今回の受賞を励みとして、この奨励賞の名に恥じないように精進していく所存でありますので、今後ともご指導ご鞭撻のほどをお願い申し上げます。このたびは、誠にありがとうございました。
(防衛研究所戦史研究センター所員) 

 
 第1回猪木正道奨励賞受賞者:佐野 秀太郎
 この度は、栄えある「猪木正道奨励賞」をいただくことになり、たいへん光栄に思っております。本書は博士論文を基に執筆したものですが、その作成過程におきましては担当教官の村井友秀先生をはじめ多くの方々から暖かいご指導とご鞭撻をいただきながら、完成することができました。この場をお借りしまして改めて厚く御礼申し上げます。
 本書は、米軍の作戦を支援する民間軍事警備会社( PMSC )に焦点を当て、その軍事的影響力の大きさについて論じた書です。 PMSC を巡っては 21 世紀以降欧米諸国を中心に様々な学問分野において取り上げられてきましたが、軍事学を含めいずれの分野も PMSC が現場レベル(作戦・戦術レベル)で軍の不足する能力を補完できる補助的な存在として、または米軍が民間力を活用したいときには自由自在にそれを活用でき、必要がなくなったときにはいつでも排除できる、いわば「便利屋」として捉えられてきました。本書は、戦力投射という戦略レベルの視点から PMSC の影響力について検証することで、イラク及びアフガニスタンでは PMSC がいまや米軍にとって軍事的に容易に切り離すことのできないほど大きな存在になっていることを明らかにすることができました。ここに本書の意義と独創性があります。
 これまで我が国では PMSC が学術的に取り上げられることはほとんどありませんでした。このことを受けまして、受賞の場におきましては審査委員長から「本書がこれからいろいろな学者や関係者たちに引用されることになろう」とのお言葉をいただきました。今後数多くの方々に引用していただけることになればこれ以上嬉しいことはありません。
 最後になりますが、この賞を頂きまして私自身誇りに思えることがあります。それは第一に現役自衛官という立場で受賞できたこと、そして第二に母校であるここ防衛大学校で受賞できたことです。これを糧に、今後も研究活動に邁進していく所存です。どうか今後ともよろしくお願い致します。
(防衛大学校国際交流企画官兼教授)                        

 

猪木正道賞発表・授賞式の詳細については、機関誌『平和と防衛』第3号(平成 28 11 月)に掲載予定〕